心臓血管外科医渡邊剛の40年の軌跡 ~My Story~
心臓手術の経験を積む
私の中学時代からの夢は、ブラック・ジャックさながら全国を飛び回り、患者さんの命を救う外科医になることでした。医学部に行くこと自体が目的ではなく、心臓外科医になることが目的でした。外科医は腕が良ければ超一流になります。また外科の中でも心臓外科ほどすぐにはっきり結果がでる診療科はありません。血が止まらなければ手術が終わらないし、正確な仕上がりでなければ患者さんは回復することができません。ブラック・ジャックに心臓外科の登場が多いのもわかります。外科医の技術1つで患者さんの命が左右され、その後の生活の質が変わるのです。
医学部を卒業して大学の医局に入ってすぐにわかったことは、10年程くらいまでの若い外科医はなかなか手術の経験をする機会がないということです。10年上の先輩でも手術をさせてもらえません。その間は何をしてるのかというと、手術の準備や手術の助手です。元々日本は他の先進国に比べて世界一心臓手術件数が少ない国です。年間に70,000件程しか行われていません。うち大動脈瘤が約20,000件、小児心臓手術が約10,000件、冠動脈バイパス手術が約20,000件、弁膜症手術が約20,000件といったところです。しかも日本のように規制がなく誰でも自己申告で心臓外科専門医になれる国では、心臓外科医一人当たりの手術件数が少ないのは当たり前です。また、1つの大学病院での年間心臓手術数は100件以下であることが多く、さらに手術の1番大事な所はすべて教授が1人でやってしまうので、若手外科医は経験を積む機会がほとんどありません。そのため、より症例数が多くてチャンスが巡ってくる外国の病院に留学することになります。日本の大学病院が修行の場であるはずのに、外国の病院に行って手術を教えてもらうとは全くもっておかしな話ですが、これが昔も今も日本の心臓外科の現実です。
留学するには、行きたいと言って行けるわけではありません。論文を書き、業績を作り、博士号を取得し、かつ奨学金を獲得して初めて認められのです。私はドイツに行きたかったのでドイツ語を学び、国費留学生として留学しました。その年に医学系で留学生となったのは私を含めてわずか3人でした。その話はまた別の機会にします。