心臓血管外科医渡邊剛の40年の軌跡 ~My Story~
完全内視鏡下心臓手術へのストーリー
これまで心臓の手術は、1960年から大きく胸を開く「正中切開」で行われてきました。近年は小さな切開で行う「小切開手術」も行われていますが、それでも胸部を7〜10cmは切る必要があり、ミックス(MICS; Minimally Invasice Cardiac Surgery)と呼んでいます。
他の疾患で内視鏡手術が拡がる一方、心臓分野では全く行われていませんでした。胸に小さな穴だけをあけて、そこから心臓の手術をするのは不可能だと、ほとんどの心臓外科医が考えていたのです。
そこで私は、新しい術式を考案しました。胸に4つの小さな穴をあけ、そこからカメラと機械を入れ、心臓の中を映像で詳しく観察しながら内視鏡手術を行う方法はどうだろう。それができれば患者さんの負担はとても軽くなると考えました。
もちろん、考えるだけでは実際にできるかどうかわかりませんでした。私は内視鏡の機械を自分の部屋に持ち込み、毎日練習を重ねました。手術を担当する患者さんが決まると、2週間前からは特に集中して練習を行いました。そして、大きな自信が持てたところで、手術を行いました。
その結果、完全内視鏡下でのオフポンプCABG手術(人工心肺を使わないバイパス手術)に成功したのです。患者さんは手術後わずか3日で自宅へ戻ることができました。このとき使用したのが、直径3mmの内視鏡鉗子と、2次元の内視鏡でした。
この手術は「小さな傷で体に優しい心臓手術」を実現するための大きな一歩となり、世界初となったこの手術はNHKの“ニュース7”で取り上げられ、また論文としては英国のLANCET誌に載りました。
ストーリー