心筋梗塞・狭心症の手術

心筋梗塞・狭心症とは?

心筋梗塞[しんきんこうそく]とは、心臓に酸素と栄養分を運ぶ冠動脈[かんどうみゃく](冠状動脈とも言います)が詰まって血液が流れなくなり、心筋(心臓を動かしている筋肉)が死んでしまう病気です。筋肉が死ぬことを「壊死[えし]」と言います。
これに対して狭心症[きょうしんしょう]とは、冠動脈の内径が狭くなった状態で、まだいくらかは血流があります。したがって、心筋梗塞のほうがより危険で重篤と言えます。
心筋梗塞と狭心症を合わせて虚血性心臓疾患と呼びます。「虚血性」とは「血液が足りない」という意味です。

心筋梗塞とは

心筋梗塞を引き起こすもとである冠動脈は、心臓を出てすぐの大動脈から枝分かれして出て、心臓の表面を走っています(図1)。心臓に木の枝の冠をすっぽりかぶせたような形で走っているので、冠動脈と呼ばれるわけです。
冠動脈には、右冠状動脈、左前下行枝[ひだりぜんかこうし]、左回旋枝[ひだりかいせんし]の3本があります(左前下行枝と左回旋枝は、合わせて左冠状動脈と言います)。
心筋が動くには、この3本の冠動脈を通して酸素と栄養分を得なければならず、冠動脈が詰まってしまったら、詰まった先にある心筋は、酸素と栄養分が届かず壊死してしまいます。壊死した心筋は再生しません。心筋が壊死すると、心臓から充分な血液が全身に送り出せなくなり、迅速に治療しないと死に至る恐れがあります。
3本の冠動脈のうち、1本が詰まったものを1枝病変、2本詰まったものを2枝病変、3本すべてが詰まったものを3枝病変と呼びます。一般に、詰まった箇所が多ければ多いほど重篤です。

心筋梗塞とは
図1

狭心症とは

狭心症でも心筋梗塞同様、冠動脈が詰まって心筋に充分な酸素や栄養分が届かなくなります。ただし、心筋梗塞とは違って冠動脈が完全に詰まるわけではなく、ある程度の血流は保たれます。
かつては、狭心症が悪化することで心筋梗塞が起こる、と考えられていました。しかし現在では、必ずしもそうではなく、狭心症の症状が出ていなかったのに、突然心筋梗塞を起こす人が、発症者の半分くらいいることが分かってきました。つまり、自覚症状がないのに心筋梗塞を発症してしまうケースが、かなりあるというわけです。
狭心症には以下のような種類があります。

●安定狭心症(労作[ろうさ]性狭心症)

階段を上がったり、重いものを持ったり、運動をしたり、心理的なストレスを受けたりしたときに、胸に痛みや圧迫感を覚えます。力仕事や運動をしたり、ストレスを感じたりすると、それに応じて、体内にたくさんの血液を送り出そうと心筋が活発に働き始めますが、血管が細っていて血液の供給が追いつかず、胸の痛みなどの症状が出るのです。毎回、ほぼ同じ程度の運動やストレスで生じます。カッコ内の病名にある「労作」とは、日常動作や運動などで体を動かすことです。

●不安定狭心症

安定狭心症と違い、痛みが強くなる、発作の回数が増える、少しの動作や安静状態でも発作が起こるといった、痛みや圧迫感のパターンが変化します。それまで症状が安定していた人にそうした変化が現われたら、危険です。冠動脈が急速に狭まりつつあることを示している可能性があるからで、こうした場合は、すぐに救急車を呼ぶか、医師に連絡をとってください。

●異型狭心症

夜、寝ているとき(特に明け方)や、昼間、安静にしているときに、胸が苦しくなる発作を起こします。多くの場合、冠動脈が一時的に痙攣[けいれん]を起こして収縮し(この状態を「攣縮」と言います)、血流を途絶えさせることによって起こります。大した動脈硬化がないのに起こることがあります。

心筋梗塞・狭心症の原因

心筋梗塞・狭心症の原因の大部分は、動脈硬化です。
高血圧や脂質の過剰摂取などのさまざまな要因で血管が柔軟性を失い、硬くなってしまう現象を動脈硬化と言います。動脈硬化が進むと、血管壁が厚みを増し、血管の内径が狭くなります。こうして血流が悪くなった状態が、狭心症です。
心筋梗塞の大部分は、その動脈硬化の進んだ血管壁の内側に脂質(脂肪分)が入り込むことで発症します。まず、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が血液中に増えすぎると、傷のついた内皮細胞(動脈の血管壁を形作っている一番内側の細胞)のすき間からLDLコレステロールが血管壁の内側に入り込みます。続いて、それを退治しようとする免疫細胞や、その他の細胞も入り込むため、血管壁にアテローム(粥腫[じゅくしゅ])」と呼ばれる脂質の塊ができ、コブ(これをプラークと呼びます)となって膨れ上がります。このプラークが破裂すると、そこに急速に血の塊(血栓)ができ、血管が塞がれてしまいます(図2)。これが心筋梗塞です。

心筋梗塞・狭心症の原因
図2

動脈硬化以外の原因もある

心筋梗塞・狭心症は、動脈硬化以外に、以下のような原因でも発症します。

  • ・冠動脈の攣縮(冠動脈の痙攣・収縮)
  • ・冠動脈の血管炎(冠動脈自体の炎症)
  • ・上行大動脈解離(心臓を出てすぐの大動脈で血管壁に亀裂が入り、その裂けたところから血管壁内に血液が流入する事態)

心筋梗塞・狭心症の症状

心筋梗塞・狭心症の症状は、主に胸の痛みや、締めつけられるような圧迫感です。
狭心症では一般的に、坂道や階段を上ったり、重い荷物を持ったりしたときに、突然、胸が痛くなったり、締めつけられるような圧迫感を覚えます。
心筋梗塞では、胸の痛みが脂汗が出るほどの激しいものになります。「痛み」というよりも、胸が締め付けられるような圧迫感、焼けつくような感じ、と表現する人もいます。
狭心症では、症状が数分から長くて15分程度と一時的なのに対し、心筋梗塞では、症状が30分以上継続し、安静にしていたり、救急薬のニトログリセリンを服用したりしても治まらず、しばしば恐怖感や不安感を伴います。
どちらも、心臓に負担のかかるような行動をとったときに症状が出ます。運動をしたり、心理的なストレスを受けたり、急に寒いところに移動したりしても、症状が出ます。

症状の詳細

痛む場所は、主に胸の中央部から胸全体にかけてで、重圧感、圧迫感、絞扼感(締めつけれらるような感じ)を伴います。ときには背中や上腹部、左の腕の内側などが痛むことがあり、また、まれに首や顎に痛みが出ることもあります。胃が痛む人もいます。このため心臓から来る痛みとは思わず、胃痛や歯痛などと勘違いする人もいます。胆石症(胆汁の通り道の胆道に結石ができる病気で、激しい腹痛を起こします)と診断されたのに、実は狭心症だった、というようなケースもあります。
呼吸が苦しい、冷や汗や脂汗が出る、吐き気がするといった症状を訴える人もいます。心筋梗塞では顔面が蒼白となり、脱力感を覚え、動悸やめまい、失神、ショック症状を呈する場合もあります。

心筋梗塞・狭心症のリスク要因と受診のタイミング

狭心症でよく見られるのは、胸の痛みや胸が締めつけられるような圧迫感が、まず5~10分程度数回繰り返され、その後大きく激しくなったり、頻度を増したりするパターン(不安定狭心症)です。
不安定狭心症でも、安静にしていればほぼ治まるので、軽く考えて放置してしまう人が少なくありません。胸の違和感や痛み、締めつけられるような感じを繰り返すようなら、狭心症を疑ったほうがいいでしょう。また、夜間や安静時にも痛みなどが出るようなら、必ず医療機関を受診しましょう。
心筋梗塞の場合、約半数は発症する1~2か月以内に、胸の痛みや、胸が締めつけられるような圧迫感を経験しますが、残りの約半数は、そんな前兆なしに、いきなり発症します。また、糖尿病や高血圧症を抱えている人、高齢者などは、痛み等の自覚症状がないことがしばしばあります。したがって、前兆がないからと油断するのは禁物です。

リスク要因

以下のリスク要因のうち3項目以上当てはまる、男性なら50歳以上、女性なら60歳以上の人は、発症リスクが高いと考えたほうがいいでしょう。
なお、発症時の平均年齢は、男性より女性のほうが10歳ほど高くなります。これは女性ホルモンの影響と考えられています。

・高血圧

高血圧は心臓に負担をかけますが、特に朝、血圧の高い人は要注意です。早朝から午前中にかけては血圧が上がりやすく、心筋梗塞が起こりやすくなります。

・肥満

見た目で肥満と分かる人はもちろん、外見には痩せていても内臓のまわりに脂肪が付いている内臓脂肪型肥満(メタボリック・シンドローム)の人も、発症のリスクを抱えています。

・糖尿病

糖尿病は動脈硬化を起こしやすくします。

・高脂血症

コレステロール値や中性脂肪値が高いと、動脈硬化を起こしやすくなります。

・高尿酸血症

痛風などと言われたことのある方に当てはまります。

・ストレス

精神的なものだけでなく、肉体的なもの(激しい労働など)も影響します。

・喫煙

喫煙は血管を傷つけ、血管の収縮、血液の凝固、動脈硬化などをもたらします。

・家族歴

家族の中に狭心症や心筋梗塞の人がいる場合、体質的な面や生活習慣の面で発症の危険性があると言えます。

注意すべき症状

胸の痛みや圧迫感はなくても、以下のような症状を繰り返すようなら、注意が必要です。

  • ・不整脈が出る
  • ・急に激しい動悸が起こる
  • ・脈が異常に速くなる
  • ・脈がドキンと飛ぶ感じがする

引き金となる原因

以下のようなことがらが、心筋梗塞・狭心症の直接の引き金になることがあります。

  • ・激務などによる極度の疲労
  • ・睡眠不足
  • ・精神的・肉体的な強いストレス
  • ・暴飲暴食
  • ・欝[うつ]状態
  • ・急激な温度変化

心筋梗塞・狭心症の発症は、冬場に多いことが知られています。冬場は室内外の温度差が激しく、室内であっても、寒い脱衣場と暖かい風呂場で大きな温度差があるため、血圧が大きく変動し、心臓に負担をかけると考えられています。
寒い冬の夜、暖かいレストランでたらふく飲み食いし、食後タバコを一服喫って店を出て、冷たい夜風にさらされたとたん発作を起こす、といった事態が、最も典型的な発症例だと言えるでしょう。
前兆があったりリスク要因があったりする人は、早めに医療機関に受診することをお勧めします。

心筋梗塞・狭心症の治療(手術)方法

狭心症の薬による治療

狭心症が軽度の場合は、内科的治療で症状を抑え、経過を観察します。内科的治療の中心は以下のような薬の服用です。

・ニトログリセリン

ニトログリセリンは、狭心症の発作が起きたときに、応急処置として飲む舌下錠です。舌の下に入れて溶かすと、すぐに体内に吸収され、1~2分で発作を抑えます。一時的に血管を拡張させる作用があるからです。ただし、持続性のない救急用の薬なので、治療薬は別に求めなければなりません。また、救急用としても、狭心症には効きますが、心筋梗塞にはあまり効果がありません。

・抗血小板薬/抗凝固薬

狭心症の内科的治療は、「抗血小板療法」や「抗凝固療法」の薬の投与が基本です。どちらも血液が固まるのを防ぐことで冠動脈の血流を良くします。抗血小板薬は、血を固める作用のある血小板の働きを抑え、血を固まりにくくします。代表的な抗血小板薬はアスピリンです。

・硝酸薬/カルシウム拮抗薬

硝酸薬やカルシウム拮抗薬は、冠動脈を拡張させることで血流を改善します。

・交感神経ベータ遮断薬(ベータ・ブロッカー)

交感神経ベータ遮断薬は、血液の量を減らすことで血流を改善します。
このほか、血糖を下げる作用のある薬を使う場合もあります。

薬では対処できない場合の治療

ごく軽い狭心症では薬物治療だけでよい場合もありますが、一般的には、薬だけで軽快することは難しく、カテーテル(細い管)を冠動脈に挿入する内科的治療(カテーテル・インターベンション)や、冠動脈バイパス術という外科的治療(共に後述)など、薬以外の治療を選択する必要が出てきます。
急性心筋梗塞を発症した場合は、大至急治療しなくてはなりません。

心室細動が発症した時の対処法

心筋梗塞は、心室細動(不整脈の一種で、心室がブルブル細かく震え、血液を送り出せなくなる状態)を合併しがちなので、それが起こるかどうか監視する必要があります。なぜなら、発症後1時間以内に死亡する原因の多くが、この心室細動にあるからです。心室細動が起こると心臓がポンプの役を果たせなくなります。こうなると、1分2分を争って人工呼吸や心臓マッサージといった心肺蘇生法を施さないと、助かりません。
病院で心室細動が起こった場合は、医師が薬を投与するなどして対処できますが、問題は病院外です。発症してから1時間という時間帯は、自宅や外出先、あるいは病院に向かう途中であることが多く、心室細動が起こっても心肺蘇生法が施せないケースが多発しています。ただ、幸いなことに最近は、至る所にAED(自動体外式除細動器)が配備されるようになったので、周りにいる人がそれを使って対処できるようになりました(原理としては電気ショックです)。
病院に向かうのに、自家用車やタクシーを使う人がよくいますが、救急車は心室細動が起こっても対処できます。ためらうことなく救急車を呼んでください。

再灌流[さいかんりゅう]療法

心筋梗塞が起こったら、一刻も早く血管の詰まりを取り除き、血液を再開通させねばなりません。この再開通作業を再灌流療法と言います。発症してから6時間以内に行なえば、梗塞した範囲が小さくなることが確認されています。
再灌流療法には、血栓溶解療法とカテーテル・インターベンションがあります。

①血栓溶解療法(線維素溶解療法)

ウロキナーゼ(UK)や組織型プラスミノーゲンアクチベータ(t-PA)といった血栓溶解薬を使って再開通を試みる方法です。これには、薬を静脈から注入する経静脈的血栓溶解療法(IVT)と、カテーテルを使って冠動脈内に直接薬を流し込む経皮的冠動脈内血栓溶解療法(PTCR)があります。
日本には次に述べるカテーテル・インターベンション(以下、PCIと略記)が可能な医療機関が多いこともあって、再灌流療法を実施する際はPCIを優先し、血栓溶解療法は第二選択とすることが多いようです。

②PCI(percutaneous coronary artery intervention:経皮的冠動脈インターベンション)

カテーテルを手や足から動脈に入れ、冠動脈の詰まった箇所まで持ってゆき、カテーテルの先端に装着したバルーン(風船)とステント(筒状になった網目の金属)を使って再開通させる方法です。
ステントは、あらかじめバルーンの外側に折りたたまれた状態で装着されています。バルーンを冠動脈の詰まった箇所で膨らませると、血管が押し広げられます。その状態でバルーンをしぼませ、抜き取ると、押し広げられたステントがそのままの状態で残ります。こうして血液を再開通させます(図3)
ただし、ステントには周りに血栓を生じやすいという欠点があります。血栓ができると、せっかく広げた血管がまた塞がってしまいます。それで、最近はステント自体に抗血小板薬を染み込ませ、自然に放散させることで血栓ができないように工夫したステントが使われるようになってきました。
体にメスを入れるわけではないので、外科手術に比べ体の負担が軽く、入院も数日で済むという長所があります。現在、1枝病変(冠動脈の1本が詰まった状態)では、主にこのPCIが行なわれています。
ただし、外科手術に比べ再発率が高いという短所がある上、2枝病変や3枝病変、あるいは他の疾患も合併しているような、より重篤な症状の場合は、次に述べる冠動脈バイパス手術でなければ対応できません。血栓溶解療法で出血性の合併症が出たようなときも、緊急の冠動脈バイパス手術が必要になります。

PCIの原理模式図
図3

冠動脈バイパス手術(CABG:coronary artery bypass grafting)

冠動脈の詰まった箇所を迂回し、新たな血管(バイパス)を繋ぐ手術です。
体の別のところから切り取ってきた血管の、一方を大動脈に繋ぎ、もう一方を詰まった箇所の先に縫い付けます(図4)。工事や事故で走行できる車線が減り、大渋滞しているとき、脇道(バイパス)を設けて車がスムーズに流れるようにするのと同じです。
迂回路用の血管は、以前は足の静脈を用いることが多かったのですが、10年くらいでまた詰まるケースが多いことが分かってきて、現在では胸や胃、上肢の動脈を使うようになりました。
PCIが心筋梗塞を再発させやすいのと比べ、冠動脈バイパス手術(以下、CABGと略記)には、新しい血管を設置するので血流が完全に改善される、という長所があります。ただし、急性心筋梗塞の場合は、手術の準備に時間を要するという短所があります。
また、直径1.5ミリから2ミリくらいの血管を、髪の毛より細い糸で繋ぎ合わせる手術なので、執刀医の腕が問われます。手術時間が長くなると合併症を起こす危険性が加速度的に増すので、スピードも要求されます。

同じCABGにも、いろいろな手術方式があります。

冠動脈バイパス手術
図4

①人工心肺使用・不使用による分類

①-1. 従来の人工心肺使用のCABG

心臓は絶えず動いている(拍動している)ので、手術中は心臓の動きを薬で一時的に止める必要があります。動いているものを相手に手術するのは、大変難しいからです。
その際、心臓以外の体の各部に血液を送らないわけにはいかないので、心臓の代わりに血液のポンプ役を務める人工心肺(図5)に繋ぎます。これは人工肺の機能も併せ持っています。ただし、この方式には、人工心肺が脳梗塞や腎不全などの合併症を引き起こしやすいという短所があります。

人工心肺のしくみ
図5

①-2. オフポンプCABG

人工心肺は使わず、心臓を動かしたまま行なう手術です。ドーナツ型をした直径4センチくらいの、スタビライザーというシリコンゴム製器具を使って、一部だけ心臓の動きを止めます。スタビライザーを心臓に押し当てると、あてがったドーナツの穴の部分だけ動きが止まります。
長所は、人工心肺が引き起こす合併症の危険が減ることです。「オフポンプ」とは、ポンプ(人工心肺)を使わないという意味です(これに対し、人工心肺を使う手術は「オンポンプ手術」と呼ばれます)。現在、CABGでは、このオフポンプ方式がスタンダードになってきています。

心臓を動かしたまま行う「Off-pump CABG」

Off-pump CABGは、渡邊剛らが1993年に日本で最初に行って広めた方法です。
20年以上の実績があり、日本で標準手術となった現在でも、チーム・ワタナベの手術は優れた結果を残しています。

15年以上経っても輝きを失わないバイパス手術
冠動脈バイパス手術後16年経過したカテーテル検査の映像

内胸動脈を縫合

胃大網動脈を縫合

橈骨動脈を縫合

②切開方法による分類

CABGを切開方法で分類すると、以下に分かれます。

②-1. 胸骨正中[きょうこつせいちゅう]切開CABG

胸の真ん中をのどの下からみぞおちのあたりにかけて縦に25~30センチくらい切り開き、開胸器で押し広げ、心臓を露出させて行なう手術で、従来からの方式です。胸の真ん中正面には、縦に胸骨という大きな骨があり、そこから何本もの肋骨が横に張り出しています。心臓や肺は、この籠のような形をした骨の中に収められ、保護されています。そのため、心臓を手術する際には、この胸骨を切り開き、押し広げることになります(図6)
執刀医にとって手術野の視野が確保できるという長所がありますが、一方で以下のような短所があります。

  • ・胸を大きく切り開くので、痛みその他、患者の体に大きな負担がかかる。
  • ・胸骨が元どおりくっつくまでに時間がかかり、それだけ入院も長期にわたり、社会復帰も遅れる。
  • ・手術が原因の感染症が起こりやすい。
  • ・大量の出血をする。
  • ・不整脈や心不全を起こしやすい。

胸骨正中切開CABG
図6

②-2. 小切開CABG(MIDCAB)

胸骨を切り開かず、肋骨の下を6~7センチほど切り開いて行なう手術です(図7、8)。胸骨正中切開の短所をカバーするために開発された手術で、こうすると、患者の体の負担は大幅に改善され、入院期間も短縮されます。

小切開CABG1
図7
小切開CABG2
図8

②-3. 内視鏡下手術、ロボット手術(CABG)

現在考えられる、最も安全で体に負担をかけない手術です。
内視鏡下手術は、メスで皮膚を切り開かず、胸に小さな穴を開け、そこから内視鏡を入れて行ないます。小切開CABGでは、肋骨の一部と神経なども切る必要があり、手術後の痛みが大幅に低減するわけではないのですが、内視鏡下手術では、肋骨はもちろん神経も切らずに済むので、痛みが大幅に減り、手術の傷もすぐにふさがります。
さらに進化したのがロボット手術(商品名から「ダビンチ手術」とも呼ばれます)です。ロボットと言っても、人間の手を介さずにすべてをロボットが行なう、というものではなく、あやつるのはあくまでも人間(医師)です。内視鏡を高度に進化させ、コンピュータ制御にしたもの、と思えばいいでしょう。モニター画像は3次元、操作はなめらかで、画像拡大機能、手振れ防止機能などもあります。
ニューハート・ワタナベ国際病院では、ダビンチ手術の中でも、胸に4つの小さな穴を開けるだけのキー・ホール(鍵穴)手術を行なっています(図8、9)。4つの穴からメスや鉗子[かんし]、カメラなどを装着したロボットの腕(アーム)を差し込み、手術を担当する医師は3メートルほど離れた操作台から、送られてくる画像を見ながらロボットの腕を操作し、手術します(図10)。4つの小さな穴を開けるだけなので、患者の負担は最も軽く、手術中の出血も極めて少なく、傷もすぐふさがって、手術後3日の入院で帰宅することも可能です。
ただし、内視鏡下手術もロボット手術も、医師に極めて高度な技術力が求められます。

小切開CABG2
図8
キー・ホール(鍵穴)手術
図9

渡邊式キーホール手術
図10

③麻酔方法による分類

CABGは全身麻酔で行なうのが一般的ですが、局所麻酔で行なう手術方法もあります。

③-1. アウェイク手術(CABG)

全身麻酔をかけず、胸部にのみ局所麻酔をかけて行なう手術です。全身麻酔は体に大きな負担をかけるので、重症の呼吸不全や脳梗塞を患っている人、あるいは高齢者では、心臓手術が必要と分かっていても踏み切れないケースがしばしばあるのですが、局所麻酔(硬膜外麻酔)なら体の負担が軽いので、手術することができます。ただし、執刀医のみならず、麻酔医にも高度な腕が要求されます。
手術中、患者に意識があり、医師と言葉が交わせます。「アウェイク」とは覚醒している(目覚めている)ということです。

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ニューハート・ワタナベ国際病院の紹介

心臓血管外科・循環器内科を中心とした高度専門治療を行う「ニューハート・ワタナベ国際病院」では、身体に優しい小切開手術や手術支援ロボット、ダビンチを用いた超精密鍵穴(キーホール)心臓手術などを提供しています。診察から手術を通して痛みや負担から患者さんを解放することを目標にし、日々工夫しています。
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