心房細動について

心房とは?

心房とは、心臓の中にある血液を出し入れする部屋のひとつです。
心臓の中には、中空になった4つの部屋があります。左右上方にあるのが心房(それぞれ左心房、右心房と言います)、左右下方にあるのが心室です(それぞれ左心室、右心室と言います)(図1)
心房は血液を溜めて心室に送り出し、心室は心房から送られてきた血液を肺や大動脈に送り出します。
この作業は、心臓が収縮と拡張を繰り返し起こすことでなされます。
つまり、収縮期には心室からの血液の排出、拡張期には心房から心室への血液の送り出しがなされるわけです(図2)

心臓のしくみ
図1
正常な血液の流れ
図2

心臓のリズムを電気信号の流れについて

心臓の収縮と拡張は、心臓内に弱い電気信号が流れることで起こります。
電気信号は、心筋(心臓の筋肉)内に張り巡らされた電線のような組織を通して伝達されています。
電気信号のスタート地点は、右心房の上のほうにある洞[どう]結節というところです。ここが心臓を動かす信号の司令塔で、いわば心臓のペースメーカーです。
ここから発した電気信号は心房全体に伝わりますが、心室に向かう信号は、心房と心室の境界にある房室[ぼうしつ]結節というところを必ず経由します。房室結節は、受けた信号をその先のヒス束、右脚[うきゃく]・左脚[さきゃく]、さらにその先のプルキンエ線維に伝えます。こうして心室全体に電気信号が伝わります(図3)
心房・心室は、電気信号を受け取ると収縮し、信号が来なくなると弛緩します。
こうして規則的な収縮と拡張を繰り返すわけです。

心臓内の電気信号の流れ
図3

洞結節と房室結節の関係

洞結節は通常、1分間に60~100回、信号を発しますが、信号を受け取った房室結節が、必ずしもそれをそのまま心室に伝えるわけではありません。正常な頻度の信号はそのまま通しますが、洞結節からの信号があまりに多いときには、適当に間引いて伝えます。
房室結節は、心室に送る電気信号をコントロールしているのです。

心臓の拍動が不規則になる不整脈について

以上が正常な電気信号の伝わり方ですが、何らかの原因でこの信号の流れに乱れが生じ、脈拍(心臓の拍動)が速くなりすぎたり、遅くなりすぎたり、不規則になったりすることがあります。この状態が不整脈です。
速くなるのを頻脈、遅くなるのを徐脈、不規則になるのを期外収縮と言います。

心房細動とは

心房細動とは、不整脈のうちの頻脈の一種です。心房が1分間に350~600回、小刻みに痙攣[けいれん]します。
心房細動は、動悸やめまいを起こしたり、心不全(心臓のポンプ機能が衰弱した状態)を引き起こしたり、脳梗塞の原因になったりします。
高齢になるほど発症者が増え、日本における患者数は約130万人、潜在的な患者数は200万人に上ると考えられています。誰でもかかり得る、放置していると怖い結果を招く病気です。

心房細動の種類

心房細動は、発作の持続時間によって、発作性、持続性、慢性(永続性)の3つに分けられます。

・発作性心房細動

発作を起こしても一時的で、数時間から数日、長くても1週間以内には自然に止まる。

・持続性心房細動

発作が1週間以上続く。

・慢性心房細動

発作が長期にわたって続き、薬剤などで治療しても止めるのが難しい。

発作性心房細動を放置していると、持続性や慢性心房細動に移行し、それに伴い、脳梗塞や心不全を起こす危険性が増します。

心室細動と心房細動の違い

心房細動とよく似た言葉に、心室細動があります。
こちらは心房ではなく心室が小刻みに震えるもので、これが起こると心室から血液が送り出せなくなり、極めて危険です。
心室細動が起こったら、一刻を争う処置が求められます。人の多く集まる場所に配置されているAED(自動体外式除細動器)は、この緊急措置のためのものです。
AEDの原理は電気ショックです。

心房細動と脳梗塞や心不全の関係

心房細動は、心室細動のように発作が起こったらすぐに命にかかわる、というものではありませんが、持続すると、いろいろと厄介な病気を呼び寄せます。
代表的なものが脳梗塞と心不全です。

心房細動と脳梗塞の関係性について

心房細動が続くと、心房の内部で血液が淀み、血栓(血の塊)ができやすくなります。この血栓が動脈に乗って心臓の外に運ばれると、体の各部で動脈を塞いでしまいます。
特に怖いのが脳の血管を塞ぐ脳梗塞で、これを心源性脳梗塞と言います(図4)
脳梗塞には、心源性脳梗塞のほか、動脈硬化がもたらすアテローム(粥腫[じゅくしゅ])血栓性脳梗塞や、細い血管が塞がるラクナ脳梗塞がありますが、心源性脳梗塞は脳の太い血管を塞ぎやすく、それだけ結果が重篤で、救命できた場合でも、多くの人に重い四肢の麻痺や言語障害などが残ります。
心房細動が起こっていると、そうでない場合と比べ約5倍、心源性脳梗塞が起こりやすいと言われています。

心源性脳梗塞のイメージ
図4

心房細動と心不全の関係性について

心房細動が起こると、それにつれて心室の拍動数が上がり、心室に負担がかかります。
多少の負担は代償機構が働いて持ちこたえられるのですが、やがて心室が疲れ果てると、ポンプ機能がきちんと働かなくなり、心不全を起こします。
心不全は、心臓病における死因の第1位で、きわめて危険です。

心房細動の原因

心房細動の原因としては、まず加齢があげられます。
高齢になればなるほど心臓の機能が低下し、電気信号を伝える組織も衰え、変質し、断線したりショートしたりして、心房細動を引き起こしやすくなるのです。
70代では約5%、80代では約10%の人が心房細動を起こすと言われています。ちなみに、女性よりも男性のほうが約1・5倍発症しやすいという報告があります。
高血圧、肥大型や拡張型心筋症、僧帽弁(左心房と左心室の間にある弁)の弁膜症といった、心臓そのものの疾患が原因となる場合もあります。
心臓疾患以外に、糖尿病、呼吸器疾患、甲状腺疾患などの合併症として発症するケースもあります。
生活習慣が心房細動を呼ぶこともあります。ストレス、喫煙、過労、暴飲暴食、睡眠不足といったものが、心房細動を引き起こすのです。
その他、原因不明の心房細動もあります。

心房細動が起こるメカニズム

心房細動が起こるのは、変則的に洞結節以外からも、スタートの電気信号が発信されるからです。近年、その主な発生源が肺静脈の付け根あたりにあることが分かってきました。
肺静脈とは、肺と左心房を結ぶ血管で、4本あります。肺で二酸化炭素を酸素に置き換えた新鮮な血液(動脈血)を左心房に運びます。
その肺静脈の左心房の付け根のあたりが興奮し、ここから異常な電気信号が発信されると、その高頻度の信号が、心房のいろんなところでグルグル旋回するようになります(図5)
こうしたメカニズムで心房細動が起こるのです。

心房細動の電気信号旋回の様子
図5

心房細動の症状

心房細動が起こると、しばしば連動して心室が過剰に拍動するようになります。
1分間に100回を超えるような高頻度の拍動が続くと、動悸が起こったり、息苦しくなったりします。常に懸命に走っているのと変わらない状態だからです。
拡張期に、血液が心室に充分には満たされなくなって、心臓が全身に送り出す血液量が2割程度減少します。その結果、全身の血管内の血液が淀みます。血圧が下がり、脳に行く血液量も減って、めまいやふらつきが生じます。時には失神する場合もあります。
夜間や安静時に突然胸が苦しくなったり、胸が痛くなったりすることもあります。
階段や坂道をきつく感じたり、疲れやすくなったりもします。
しかし、心房細動が起こっていても、実は、半数近くの人には自覚症状が出ません。そういう人では、房室結節がきちんと働いて、異常な興奮をそのままでは伝えず、心室には1分間に60~100回程度の正常な信号しか行かないように調節してくれるからです。
つまり、心房細動の症状が出るか出ないかは、房室結節の働き方ひとつなのです。

心房細動と脈拍

心房細動では、心臓が1分間に350~600回、小刻みに震えることはすでに記しましたが、その小刻みな振動を引き起こす電気信号が、すべてそのまま脈拍(心室の拍動)に反映されるわけではありません。何度も述べたように、房室結節が適当に信号を間引いてくれるからです。
それでも、あまりに高頻度だと、脈拍は頻度の高いものになります。たとえば、1分間に600回の電気信号を3分の1に間引いたとしても、200回の信号となってしまいます。
また、房室結節での信号の中継が不規則になるので、心室に伝わる信号も不規則になり、心室の動きも不規則になります。その結果、脈拍も当然バラバラとなり、測ると速くて分かりにくい脈になります。

心房細動の治療方法

心房細動の治療法には、大きく薬剤療法と非薬剤療法があります。
薬剤療法は薬で治療するもの、非薬剤療法は薬以外で治療するもので、後者には高周波カテーテルアブレーションや外科手術(メイズ手術)などがあります。

心房細動の薬剤療法

薬は、大きく以下の3つの目的で使われます。

  • ・リズムコントロール
    心房細動を停止させ、不整脈そのものをコントロールします。用いられるのは抗不整脈薬です。
  • ・レートコントロール
    心房細動を直接抑えることはせず、房室結節の働きを正常化させます。心室に異常な電気信号が流れず、心拍数が速くなりすぎないようにするわけです。房室結節がコントロールできて、心室に送られる信号が正常なものに近づけば、心室への負担が軽くなり、心不全の合併が防げます。
    ジキタリスやベータ遮断薬、カルシウム拮抗薬などが用いられます。
  • ・抗凝固療法
    心房細動の治療と言うより、心源性脳梗塞を予防するためのもので、心臓の中に血栓ができるのを防ぎます。
    心源性脳梗塞の発症を検討した大規模な研究で、ワーファリンという薬剤が非常に有用であるという報告があり、現在、抗凝固療法にはこのワーファリンがよく用いられます。
    ただしワーファリンは、抗凝固作用と副作用(摂りすぎると出血しやすくなる)の間のバランスが難しく、定期的な血液検査でその人に合う投薬量を調整しなければなりません。納豆や緑黄色野菜などのビタミンKを多く含む食べ物の影響も受けやすく、食事の管理が面倒です。
    それで近年、そうした問題点を改良した新薬が登場するようになりました。NOAC(new/novel oral anticoagulant:新規経口抗凝固薬)やDOAC(direct oral anticoagulant:直接経口抗凝固薬)がそれで、血液検査の必要がない、食事制限が不要、といったメリットがあります。一方で、薬代が高いというデメリットもあります。

薬剤使用の問題点

薬剤療法で心房細動が完治することは期待できません。主として、心房細動が起こる回数を減らす、症状を軽くする、発作の持続時間を短くする、といったことが、薬を使う目的になります。
一生服薬し続けなければいけないというのも問題です。
また、薬には必ず副作用があります。

心房細動の非薬剤療法

心房細動の非薬剤療法には、電気ショック療法、ペースメーカー療法、高周波カテーテルアブレーション、外科手術(メイズ手術)があります。

①電気ショック療法

慢性化した心房細動を抑えるには、電気ショック(電気的除細動)を与えて発作を止めるというのも有効です。直流電流を一瞬、体に流す治療法です。
電気ショックは痛みを伴うので、全身麻酔下で行ないます。
ほとんどの心房細動を止めることができますが、心房細動をなくす根本的な治療法ではありません。

②ペースメーカー療法

ペースメーカーを心臓に植え込み、電気信号のリズムを一定にする治療法です。
ペースメーカーは、特に洞不全症候群(徐脈頻脈症候群)の人に有効です。
洞不全症候群とは、速い脈と遅い脈を併せ持つ状態です。洞不全症候群では、心房細動の発作が止まったとき、それまでの頻脈から極端な徐脈になることがあります。こういう人に抗不整脈薬を使うと、頻脈が抑えられる一方で、徐脈がひどくなって、ふらつきや失神を起こします。
こうした人にはペースメーカーを植え込んで徐脈を防ぎ、薬で頻脈を抑える治療を行ないます。

③高周波カテーテルアブレーション

高周波カテーテルアブレーションとは、数本のカテーテル(細い管)を脚の付け根から血管を通して心臓の内部にまで挿入し、そのカテーテルを使って異常な電気信号を発している箇所を見つけ出し、そこを焼灼したり冷凍凝固したりする内科的治療法です。
体に直接メスを入れるわけではないので患者さんの体の負担が軽く、近年よく行われるようになりました。ただし、効果は限定的です。
具体的には、左心房に繋がる肺静脈の付け根あたりを、高周波通電して焼灼したり、冷凍凝固したりして破壊します(図6)
「アブレーション」を日本語に訳すと「隔離(遮断)」です。異常な電気信号が伝わらないよう、施術で異常個所を電気的に「隔離(遮断)」するということです。
今のところ、発作性心房細動では成功率は70~80%程度ですが、持続性心房細動ではさらに成功率が下ります。
心房の直径が50ミリを超えると(心房細動が長く続くと、徐々に心房が大きくなるのです)高率に再発するので、その場合は、良心的かつアカデミックな内科医はアブレーションを行ないません。

心房細動の電気信号旋回の様子
図6

心房細動の外科手術(メイズ手術)

高周波カテーテルアブレーションが行なえなかったり、行なっても成功しなかったり、心臓に他の病気があって手術を必要としたり(たとえば、僧帽弁手術など)する場合は、心房細動に対する外科手術を行なうことがあります。
心房細動の外科手術の基本は、メイズ(Maze)手術です。心房自体にメスを入れ、心房細動が起こらないようにします。最も根治が期待できる治療法です。

メイズ手術とは何か

メイズ手術とは、左右の心房の心筋に対し、4センチ幅以下の短冊となるよう迷路(メイズ)状に電気的な遮断を行なう手術です。遮断する方法としては、メスによる切開、高周波焼灼、冷凍凝固があります(図7,8)
この手術は、「心房筋に電気的な旋回路となっている複数の部位が存在する」という理論に基づいたもので、その旋回路をなくしてしまおうというわけです。
心房細動の元となる不整脈源を根治する方法としては、高周波カテーテルアブレーションよりも優れた、一番治療効果の高い方法と言えます。
この手術では、同時に左心耳というところを切り取ります(図9)
左心耳というのは、左心房のわきにある、行き止まりになったほら穴のような構造の組織で、ここに血栓が溜まりやすいことが分かっています。したがって、左心耳を切り取ることは、心源性脳梗塞の予防にもなります。
左心耳を切除しておけば、仮に手術後、心房細動が再発しても、抗凝固剤を服用する必要がない場合があります。

フルメイズ手術
図7
フルメイズ手術における冷凍凝固
図8

左心耳
図9

フルメイズ手術の利点

フルメイズ手術は、心房細動を単独で治療する際の根治手術として、1991年にコックス(J.L.Cox)が開発した手術法です。冷凍凝固を併用したこの手術で慢性心房細動の85%以上が完治しましたが、カテーテルアブレーションが技法として確立されて以降は、単独心房細動の手術法としてはあまり行なわれなくなりました。

しかし、現在のところ、カテーテルアブレーションで心房細動の停止に成功しなかった例、施術後に心房細動が再発した例などにおいては、カテーテルアブレーションでは対処のしようがありません。高い完治率を考えれば、慢性心房細動にはフルメイズ手術が最適と言えます。

心房細動単独の外科治療には、これまでフルメイズ手術として、施術に当たって胸部を大きく切り開いていました。それだけ患者さんの体に負担をかける、手術時間が長い、心房を複雑に切り刻むので心房機能が低下する、といった短所がありましたが、ニューハート・ワタナベ国際病院では、大塚俊哉医師の加入により、現在では完全内視鏡下で手術を行なっています。

心房細動を合併する僧帽弁閉鎖不全症の手術では、通例、フルメイズ手術を同時に行なっています。
電気的な遮断には、すでに記したように、切開して縫合する、焼灼する、冷凍凝固する、という3つの方法がありますが、ニューハート・ワタナベ国際病院では、その中の冷凍凝固する方法を採用しています。そのほうが完治率が高いという報告があるからです。新しい外科用冷凍凝固デバイス(器具)も市販されるようになりました。
冷凍凝固の利点は、高周波焼灼に比べ、心房壁の厚さに関係なく壁を貫く遮断の様子を目にすることができること、施術が短時間で行なえること、三尖弁や僧帽弁の回りにも使えること、などです。

フルメイズ手術の欠点・適応・禁忌

フルメイズ手術の欠点は、手術に際し心臓を一時的に止めるため、手術の間は人工心肺を使わねばならず、その運転にかかわる、脳梗塞や腎不全の発症などの一定のリスクが避けられないことです。
フルメイズ手術を適応していいと考えられるのは、主に以下の3つのケースです。

  • ・高周波カテーテルアブレーションを行なったが、成功しなかった人、心房細動が再発した人
  • ・以前、脳塞栓症などの塞栓症にかかったことのある人
  • ・薬剤抵抗性がある(薬が効きにくい)人や、高周波カテーテルアブレーションが行なえない人

フルメイズ手術が禁忌なのは(やってはいけないのは)、人工心肺に繋ぐと合併症を起こす可能性が高いと考えられる人、高度の大動脈石灰化や多発脳梗塞など、手術後に脳梗塞を発症する可能性が高いと思われる人などです。

心房細動の治療費

フルメイズ手術などの心房細動の治療については、健康保険が適用されます。
3割負担の健康保険に加入している70歳未満の一般の方を例にとって、治療費を計算してみましょう(食事代、差額ベッド代などは除きます)。
患者さんの負担額の計算式は、以下のようになります。
80,100円+(医療費総額-267,000円)×1%
ここで、仮に医療費の総額が200万円だったとすると、上の式に当てはめて、負担額は97,430円となります。
退院時に治療費総額の3割を病院に支払った場合は、高額療養費制度の限度額認定証を入手すれば、余分に支払った分が戻ってきます。つまり、3割負担の人が200万円×30%=60万円を退院時に支払ったとしたら、60万円-実際の負担額97,430円=502,570円が戻ってくるというわけです。

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ニューハート・ワタナベ国際病院の紹介

心臓血管外科・循環器内科を中心とした高度専門治療を行う「ニューハート・ワタナベ国際病院」では、身体に優しい小切開手術や手術支援ロボット、ダビンチを用いた超精密鍵穴(キーホール)心臓手術などを提供しています。診察から手術を通して痛みや負担から患者さんを解放することを目標にし、日々工夫しています。
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