2015年3月26日『週刊文春』心房細動について

不整脈が原因の脳梗塞
心原性脳塞栓症は心房細動を克服すれば防げる。発見には心電図や自身で脈診を。

取材・構成 恵原真知子

ある耳鼻咽喉科専門医は、高齢患者に接すると「心電図は定期的に受けている?心房細動があると心原性脳梗塞とそれに伴う寝たきりリスクが上がるので、内科の先生と相談を」と啓発している。真意を問えば、現役医師の八十代の母親がアブレーション手術を受け、診療が可能なまでに回復できたので、地域医療の担い手として(耳鼻科とは関係なくとも)要介護者・介護家族を減らすための情報発信に力を入れているという。
心房細動が引き起こす脳梗塞は心原性脳塞栓症、俗に,“長嶋型”といわれる。心臓に出来る血栓は比較的大きく、脳に飛ぶと太い血管を塞ぎ、その結果の脳梗塞は脳の広い範囲に及び、死亡率が約二割、四割は寝たきりや重い後遺症が残る要介護患者を生み出してしまう。当事者・介護家族に社会的・経済的負担を強いるため、予防等が注目されている。公益社団法人日本脳卒中協会と一企業であるバイエル薬品(株)は二〇一四年に「心房細動による脳卒中を予防するプロジェクト」を共同事業として開始し、自治体・保険者・医療提供者に向けて具体的提言書を発表。改訂版も出て、モデル地域の取り組みが紹介されている。六十歳以上の心源性脳塞栓症の原因の七割以上が心房細動によるもので、心房細動のある人は推計八十万人、2030年には百万人に届くとみられる。

「心房細動は心房が症懲したような状態でうまく収縮できないため、特に心房の中の左心耳に血液が滞留し、心房内で血の塊(血栓)ができやすくなります。血 絵が血流に乗って脳の動脈を詰まらせるのが心原性脳塞栓症です。他の脳梗塞に比べて再発率が七割以上と高いことも特徴です。
アブレーション治療は鼠蹊部など太い血管からカテ-テルを刺し入れ、不整脈の原因となっている部分を高周波電流で小さく焼き切る方法です。これに内視鏡下で左心耳切除を追加する新たな手法が注目されています」とニューハート・ワタナベ国際病院の渡邊剛総長は言う。

心房細動を予防できれば
厳しい数字が並ぶが、心房細動に対し、適切な薬物治療をすれば約六割の脳梗塞を防げるという。予防の前提は早期発見であり、そのための基本検査は心電図だが、どうしたことか、後期高齢者の検診メニューには心電図が入っていない。そこで、プロジェクトでは本人が「脈をとる」方法をネット上で閲覧できるようにしている。まずは費用0円でマスターできる脈取りを家族で覚え、不整脈の有無を知ることから始めよう。不整脈を察知した場合は、できれば循環器内科を受診、専門医と相談して治療方針を決めていってはいかがだろう。血栓を予防する薬物もいろいろあり、効果や費用も様々だが、一部の薬はいったん始めると、休薬には危険も伴うなどの難点があり、薬価も高い。 予防法はあるものの、完全無欠ではないということで、医師と相談の上、患者も病気や薬についてよく学びながら、最普の方向を探すことが何より重要だろう。 「心房細動の治療は循環器分野の重要な医療であるとともに、巨大ビジネスともいえます。前出の新治療のパイオニアは都立多摩総合医療センター心臓血管外科の大塚俊哉先生です。私も早速導入しましたし、急速に普及しつつあります。低侵襲なので高齢者でも大抵が対象となり、患者さんを薬漬けにしなくて済むことも大きな利点です」抗凝固薬の服用については、できれば複数の医師の意見を求めてはいかがだろう。

大動脈
左心耳
左冠状動脈
上大動脈
右心耳
右冠状動脈
下大静脈

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