ご高齢の方への心臓手術

ご高齢の患者さんの手術に対して、様々な対応を行っています

最近の患者さんは高齢化しています。日本全体が高齢化しているためです。また、年齢をとっても社会的な活動範囲が広い方もたくさんいます。しかし、活動性が高いと言っても年齢が上がれば当然、心臓もそれ以外の臓器の能力は低下しています。心臓手術では75歳以上はハイリスクとクラス分けされて手術をしない都内の有名病院もあります。

術前リスクの評価

CABG術後の早期死亡は、年齢、低左心機能、緊急手術との関連がある。さらに、性別(女性)、CABGの既往や、合併する慢性疾患(糖尿病、末梢血管病変、腎機能障害、閉塞性肺疾患)はCABGの早期死亡のリスクを増加させる。これら、早期死亡に影響すると指摘されている諸因子は、予測死亡率の暫定のため、EURO Score、STS Score、Japan Scoreなどに反映されている。

※「虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選 択ガイドライン改訂版」より引用。

年齢別の死亡率

初回待機CABGにおける手術時齢の影響について、EACTS(European Association for Cardio-Thoracic Surgery)からは、5歳きざみで年齢別死亡率が報告されている。それによると、

56歳未満⇒0.9%
61-65歳 ⇒1.3%
71-75歳 ⇒2.9%
80歳以上⇒6.7%

と、漸次増加している。2010年のわが国の10歳きざみの集計でも、70歳以下の年齢層では、いずれも1.0%以下であるが、80歳代では1.5%の死亡率であった。欧米に比し、高齢者の手術成績が優れているが、80歳以上では、若年者に比し高い死亡率であることは同様である。

※「虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選 択ガイドライン改訂版」より引用。

大事な心臓のケア

1. 素早い手術で心臓を止める時間を短くする

高齢者においては心臓の予備能が低いために、なるべく短時間で手術を終わることが大事となります。心臓を止めている時間が短ければ身体にとって優しいわけです。 我々は大動脈弁狭窄症の手術に、大動脈弁の連続縫合を考案しました。いままでにくらべて短い心停止時間(40分程度)、それにともない人工心肺時間も短くなりました。入院日数も短くなりました。

2. 術中心筋梗塞の予防

我々は1999年より人工心肺を使わないoff-pumpCABGは既に2000例を超えました。Off-pump手術はいい方法なのですが欠点もあります。血管をつなげている間は心臓の筋肉に血が廻らないので、時間制限(10分以内)内に正確に血管をつながないと心停止になることもある一歩間違えると怖い手術で、多くの外科医は爆発物処理班の心境でやっているはずです。
私は手術時に心筋の虚血にならない工夫をするため、心臓の血管に血液を送る特殊な機械を開発し使っています。この機械を開発したことでOff Pump手術の落とし穴である手術中の血圧低下などショックが防げ、また時間制限内に急いで行う手術からより丁寧な手術へと手術の効率を上げることに成功しています。

全身状態のケア

高齢者では心臓以外に肺・肝臓・腎臓そして脳などの臓器が既に予備能の低下、あるいは障害を合併している場合があります。

肺炎の予防

患者さんには手術前の呼吸リハビリをがんばってもらい、術後も翌朝から呼吸リハビリに師よる本格的なリハビリをはじめます。高齢者は早期リハビリで、早く術前の状態に戻れます。傷はまだちょっと痛いですが。。

脳梗塞、ボケの予防

最も恐ろしい術後の脳梗塞を減らすため、冠動脈バイパス手術では人工心肺を用いない方法で行っています(前述)。人工心肺を使わないと脳合併症は少なくなるからです。 それでは無病状でも、高齢者ではどれだけ脳の老化が進んでいるかCTととって見てみましょう。

脳の合併症を減らすために!!

手術の工夫

人工心肺の工夫
人工心肺回路は脳の機能に良くない影響を与える事が知られています。たとえ若い患者さんであっても人工心肺を使用したあとの高次脳機能は障害されているということが報告されており、近年では頭脳明晰なNew York Timesの記者が人工心肺手術を受けた後に高次脳機能が障害されたことを手記としてScientific Americaに寄稿し話題になりました。

Scientific America [PDF 74KB]

冠動脈バイパス手術では人工心肺を用いずともできますが、弁膜症などの手術では人工心肺は必須です。そのためにも高齢者においては人工心肺の時間をなるべく短くする工夫が必要です。
たとえば我々はあまり温度を下げない34度くらいの温度での手術を積極的に導入し、短時間の心停止と合わせて高齢者の手術成績の向上と術後の高次脳機能低下の防止を行っています。
いずれも、手術が完全で迅速でないと成し遂げることはできません。

麻酔も優しい方法で

麻酔の工夫

アウェイク手術
脳に機能的障害について予防することは手術の技術のみならず、手術中の麻酔にも当てはまります。特に高齢者においては、全身麻酔をした後に術後に記銘力が低下する、あるいは高次脳機能が低下し、慢性期にはボケの進行が早くなるといったことは時々全身麻酔を用いた手術の後に見られる傾向です。
我々はこの点に早くから注目し、なんとか覚醒状態での手術が出来ないかと考えていました。

1998年より全身麻酔をかけずに意識下に行うアウェイク手術を開発しました。方法は高位硬膜外(こういこうまくがい)にカテーテルを留置し、手術をする範囲の疼痛覚および神経を遮断することにより意識を保ちながら手術をするという方法です。
呼吸も自発、心臓も心拍動という極めて自然に近い形で冠動脈のバイパス手術を行うことに多数成功しました。患者の候補としては脳梗塞や超高齢そして強い肺炎などの既往のある患者さんに対してこの方法はとても良い方法です。
またアウェイク手術は自発呼吸のまま行うので肺炎などになりにくいなどの大きなメリットがあるものです。

物忘れ「予防」と「改善」に最適!

サプリメントαGPC:グリセロホスホコリン

アメリカでは弁護士のサプリと呼ばれているとか。
渡邊が愛用している自然食品のサプリメントで、大豆レシチンから抽出された成分が入っています。25年前よりイタリアを中心として臨床試験でその有効性と安全性が確立されており、最近では信頼のおける純化したαGPCを用いると成長ホルモンの分泌促進や若返りや美肌などに良いとする報告があり、アンチエイジング作用も注目されています。

上記のような心臓、そして脳、呼吸器など重要臓器の保護を行うことに心を砕いて心臓外科でやってきたわけでありますが、高齢者の患者さんをご家族にお持ちの方、あるいは御本人が75歳以上の方はこのコラムが有効になれば幸いです。