渡邊剛について論文のご紹介
- タイトルBeating-heart endoscopic coronary artery surgery
(日本語訳:完全内視鏡下の心拍動下冠動脈バイパス術) - 著者 渡邊 剛
- 発表年 1999年12月
- 掲載誌 THE LANCET
- 抄録
我々は胸を開けずに完全内視鏡下の、かつ心拍動下の冠動脈バイパス術を行う新たな技術を開発した。そして2例において成功した。
低侵襲手術として小切開手術であるMIDCABは、左内胸動脈を左前下行枝に左の小切開にて人工心肺を用いずに吻合する新しいテクニックであり限られた患者さんにおいては大変素晴らしい方法である。また内視鏡を使うことで、より小さい傷になることが可能である。しかしながら技術的な困難性によって今までは完全内視鏡の冠動脈バイパス手術は完全な人工心肺、心停止下でのみ行われていた。
我々は心臓の前壁で表面の吻合部位を固定するスタビライザーとして、内視鏡ポートより挿入可能な吸引型のデバイスとして新たなスタビライザーを開発した。
われわれはこのデバイスを用いた完全内視鏡下の心拍動下冠動脈バイパス術を68歳と76歳の前下行枝1枝病変の男性患者に行った。
我々が開発した内視鏡用のスタビライザーは再使用が可能であり、図1に示すごとくポートからまっすぐな形にして挿入が可能である。このデバイスはフレキシブルな吸引チャンネルを持ちその先端は内視鏡にて体内で円形にすることができる。吸引チャンネルはマイナス400mmHgで吸引することが可能であるそれにより心表面に密着する。
手術は直径12ミリのポートを2つ、そして直径15ミリのポートを1つ、合計3つのポートで行った。左肺を縮小させ内視鏡下に内胸動脈を超音波メスにて剥離した。全身のヘパリン下の後内胸動脈の断端を切断し準備を整えた。そして心膜をあけ、左前下行枝を同定した。内視鏡用のスタビライザーは第4肋間のポートを用いて胸腔内に挿入した図2にのように左前下行枝の上に装着し心表面の動きを固定した。左前下行枝の分強上流の部分は50のモノフィラメント糸により駆血を行った。その後前下行枝を剥離紙メスで切開を加え、内視鏡用のハサミで冠動脈を切開した。そして内視鏡様の持針器とピンセットを2つのポートよりそれぞれ挿入しコンベンショナルな方法にて8-0モノフィラメント糸で左内胸動脈と左前下行枝とを吻合した。吻合に要した時間は25分から40分であった。
手術中に不整脈は発生せず術後の出血などの合併症もなかった。両患者は術後4日目に退院が可能であった。術後の血管造影ではグラフトは良好に開存していることが示された。