小切開手術と完全内視鏡手術=鍵穴(キーホール)手術の大きな違い

ダビンチによる手術もだいぶ多くの方が認知していただけるようになりました。多くの患者さん、特にニューハートワタナベ病院においでいただく患者さんは、地元の病院での開胸手術を勧められ疑問に思い調べた結果、ダビンチ手術が良いと言うことで来る方がほとんどです。

開胸する必要のない手術、小さい穴だけの手術を受けることができるようになった今、ダビンチによる完全内視鏡手術を受けないという選択肢はないものと心から思っています。

ですが、ここで問題もあります。

ダビンチ手術は、ダビンチを使ったからといってダビンチ手術のメリットがあるわけではないと言うことです。
つまり、小切開をしてダビンチを使う手術を行うのは本来のダビンチの良さを全く生かしてはいません。それは、小切開手術としてロボットを使わずともできる手術だからです。

小切開手術「MICS」をご存じない方のために説明しますが、胸の真ん中で大きく分ける代わりに左や右の胸に5〜8センチ程度の切開に加え肋骨の間をこじ開けて手術をする手術です。

小さい傷といっても、肋骨をこじあげたり肋間神経や肋間動脈を傷つけたりしますので、ある程度の出血が起こります。大体400〜500ccの出血が見込まれます。その状態で弁の手術をするので、比較的技術的には困難ですが、患者さんの満足度の大きい手術でもあります。

心臓ダビンチ手術一方、私たちのやっているダビンチによる鍵穴(キーホール)手術は、ダビンチを使って小さい穴を4つ開けるだけで手術ができますのでそれぞれの傷は4つあるものの、とても短い時間で回復しますし、肋骨の間をこじ開ける必要もなく、動脈も静脈も神経も傷つけないので、痛みや出血などが少ないと言う利点があります。出血量も約40〜50ccで、MICSの10分の1となるわけです。

2018年の4月にロボットの心臓手術が保険適用され、日本でもいくつかの施設が心臓手術ロボットで開始しました。

しかし、私たちの施設以外のところでは5〜8センチの切開を置いた上で、そこからできるだけ、ロボットではやりにくいところには直接手を使って行って、ロボットを使うのは弁を触るところだけで行っています。

導入当初の安全のためにはそれが必要なのかもしれませんが、ロボットで内視鏡手術をする以上、小切開手術との併用では大きなメリットは認められません。

例えると、自転車に乗れない子供が、補助輪のついた自転車をこいでいるのと同じようなものです。

つまり、ダビンチを使う心臓手術では、完全内視鏡のロボット手術が最も患者さんにとってメリットがあり、意味のあることだと思っています。

例えば、胆嚢摘出手術を、5センチといえど小さい傷を開けた上で、内視鏡を使ってやって患者さんが喜ぶでしょうか? また、前立腺の切除術を、お腹に7センチの傷を開けてロボット手術を受けて、患者さんが喜ぶでしょうか?

いいえ、決して喜びません。
それはただ、内視鏡やロボットを一部に使っただけと言うことになります。

現在、心臓以外の病気では、ロボット手術はほぼ内視鏡の入るポートだけを使って行っています。心臓の手術でも、本来の内視鏡手術のところまでレベルアップして、多くの人々の誤解がないように、ロボット手術を受けてもらう日が来ることを望んでいます。