石岡荘十さんが胸部外科学会の手術成績についてのコラムを投稿されています。
http://hyakka.seesaa.net/article/253636119.html

日本胸部外科学会ははじめて施設名は出さないけれど各施設の成績を出しましたね。これだけでも画期的かもしれませんが、患者さんサイドからすればまったくメリットはありません。どこに行けば安全か、どこに行けば危ないか分からないからです。社会に開かれた学会を目指すのであれば、施設は公表するのが筋でしょう。
発表をしたらとんでもないことが起こるのは間違いないので発表は出来ないでしょう。”えっ、あの有名病院、大学病院こんなに成績が悪かった?とか冠動脈バイパス手術は見事な成績だけど弁手術はだいぶ悪いとか、大動脈瘤なんかはかなり施設間で成績がちがうことが浮き彫りになります。
大動脈瘤で有名な先生の病院がすごく悪かったりとかあるわけです。
一方、施設数と成績の相関関係の考察も意義があります。そこで注意が必要なのは症例数の少ない施設に関しては、基幹病院の優秀な医師が出向いて手術をしている場合もあるので成績が悪くならないという場合もあります。いっぽう本当にproperの先生が年間30例もしていない病院もあります。そのばあいには腕が本来よい外科医であっても、胸を開くチャンスがないのですから経験値も低く安全に出来るとは言い難いでしょう。症例数の少ない病院に関して、このレポートははそういう注意をはらって見ていかなくてはなりません。みなさんこのコラムどうお読みになるでしょうか?
続編があるので楽しみです。

以下引用です

◆手術実績を隠す日本胸部外科学会 ③

石岡 荘十

 
――日本胸部外科学会のアンケート調査で浮かび上がった問題点――

・“危ない病院”名を公開しない日本胸部外科学会

となると患者としては「安心できる施設はどこだ」「危ない病院はどこか」と知りたくなるのが人情というものだ。しかし、日本胸部外科学会は具体的な施設の名称は明らかにできないと言う。これでは一体何のためのアンケート調査かと言いたくなる。

日本胸部外科学会の坂田隆造理事長(京都大学心臓血管外科教授)は2011年11月、理事長就任の挨拶の中で「日本全国で行われる胸部外科手術のほぼ全例の成績を含めて掌握している事実は驚くべきことだ」と自画自賛した。

なるほど心臓外科業界の利益を優先する団体としてはアンケート調査は心臓手術の実態を掌握するうえで意味があるのかもしれない。

しかし、患者サイドからすれば、942カ所もある心臓手術施設のうち、安心して任せることができる施設は10カ所に過ぎず、まあまあの施設が71カ所、残りは“危ない病院”だということが明らかになったという意味で「驚くべき」調査結果だった。

また942施設のうち464施設を対象にした調査をもってして「ほぼ全例の成績を含めて掌握」と評価するのは、いかがなものか。残る半数以上の施設の実績は取るに足りないと言うのか。学会は「実態はどうなっているのか」という患者の一番知りたい情報を隠し続けているのである。

日本胸部外科学会は、若い外科医を育てるため466施設を「修練施設」とし、さらにこのうち332施設を「基幹施設」と指定し、ここでは年間手術実績100例を超えているとしている。その名前は以下ホームページ上で公開している。
http://cvs.umin.jp/inst_list/inst.html

「ここなら安心して手術を受けられます」というつもりのようだが、今回のアンケート調査の結果と照らし合わせてみると、年間総手術数100例以上をこなす施設は81に過ぎない。実は332もなく、相当甘く見ても基幹施設の4分の1しかないのではないかと疑われる。この数字の食い違いを学会はきちんと説明すべきだろう。

学会は「日本の手術成績は悪くない」と言うが本当か

それでも日本胸部外科学会は「日本の手術成績は欧米に較べて決して悪くない」と胸を張っているが、本当にそうだろうか。

少し古いが、ここに日本経済新聞が調査したデータ(2006年1月15日付特集記事)がある。心臓疾患の中で一番症例数が多い冠動脈バイパス手術144例について、3本の冠動脈バイパス手術の所要時間を調査したものだ。

それによると、もっとも短いものは3時間だった。全体的に見た場合、4分の3は6時間程度だったとされている。しかし、長いもので9時間程度、中には10時間以上かかった手術もあったという。

10時間以上もかかったのは近畿地方のある大学病院で、その理由は「経験の少ない若手医師の指導もしなくてはならないからだ」と説明されている。手術時間が長い施設は、大学病院に限らず手術数の少ない施設に集中している。

欧米のテクニシャンは「心臓を覆う冠動脈手術で1.5時間、胸部大動脈手術は2時間で終わらせる」という報告もある。
心臓手術はいわばチーム医療であり、術者(執刀医)のほかに麻酔医や看護師、臨床工学士、事務職員など大勢のスタッフが関わる。しかし、下手な執刀医だと、これらのスタッフを長時間拘束してしまう。

このため医療経済から見ても効率の悪い医療が平然と行われることになる。患者が死なくても、手術時間が長ければ長いほど、患者に余分な肉体的負担をかける。それだけではない。手術後の合併症を起こす可能性さえ高くなる。

手術の成績は、患者が死亡しなかったからいいというものではなく、手術時間や術後の患者の経過、手術の効率などを総合的に評価すべきものだ。「手術成績は悪くない」などと自画自賛している場合ではないだろう。(続く)