おかげをもちまして、ニューハート・ワタナベ国際病院が開院してから3か月が経ちました。最初は個人の病院を作って患者さんがどれくらい来院されているかを心配した時期もありましたが、3か月ですでに60例以上の心臓大血管呼吸器手術を行えたことは大きな喜びでありました。東京の地で、しかも新規開業で内科医もいないといった中で、どうしてこのように多くの患者さんが来られたかを考えると以下のことが考えられます。
1つ目として、心臓外科手術が500施設以上と1億の人口を抱える日本には明らかに多い数の心臓外科施設が乱立したことにより、それぞれの施設の症例数が減ることによって引き起こされる成績の低下です。死亡例は出なくとも長期入院や合併症を起こすことによって引き起こされる、“弁は換えた”、“バイパスはしたが良くならなかった”という心臓手術、術後状態ということが、東京には当たり前として蔓延していたということです。手術を控えた多くの患者さんたちは全く状況がわからないまでも、雰囲気としてそのような状況があるということがわかっていたのだと思います。
第2点は、東京は1200万人を要する大都市ではありますが、きちんとした手術ができる心臓外科医がほとんどいないということです。それぞれ小さい殻の中で内科とお互いに紹介をしあって、寄り添いながら支えあって生きていく内科と外科の小さいコミュニティがあるだけです。このような中で患者様の声が黙殺されていました。
第3点、インターネットなどの情報交換が進むことによって、患者様は「いい医療をもとめて別の病院にいける」ということを理解したことです。
話は横道にそれますが医者のモラルハザードは大きな問題です。都内や多くの地方の患者さんを診ていくに従いわかったことです。私たちの病院は紹介状が不要なので多くの患者さんがセカンドオピニオンを求めて来院されます。セカンドオピニオンを求めたいことを主治医に話すと、その瞬間に手のひらを返したように「もううちの病院では診ない」「勝手に行きなさい」「紹介状は書かない」などといった冷たい言葉を吐かれた患者さんが多数いらっしゃいます。主治医が心臓外科医ではプライドを傷つけられたのか迷惑顔をされるようで、特に都内K大学やJ医大ではセカンドオピニオンのための紹介状を頼める雰囲気にはありません。実力はさておきこのような不遜な態度の医師がいかに日本に多いかがわかります。学閥や地域のコミュニティ、つながりを大事にすることは必要でしょうが、患者さんの存在を無視してそのようなことを行っているこの日本の医療界に対して大なたを振るう時期が来ていると思います。医師のモラルハザードはもっとも大きな問題かもしれません。戦後の高度成長経済が、最後のあだ花となったバブル経済を経て深刻な社会の荒廃をもたらしたことを考えると、この経済崩壊だけではなく、日本人の心、そして医師そのもののモラルの低下が医師に対する信頼を失ってしまった時代に来ているのではないかと思います。我々はより多くの医師にモラルを教育していくことが必要です。私自身新しい病院を作りましたが、これから可能な限り多くの患者さんの治療をし、良い医師と良い医療をこの地から育んでいこうと改めて思いました。振り返って、昨今のこの乱立した心臓外科と低迷した心臓手術レベルを考えていると、深刻な医師のモラルの低下とレベルの低い心臓手術によって、日本の患者さんは未曾有の状態にあるといえます。それに対しできることをすべてやり、私の心と体をフル回転してことにあたる所存です。